政府主導+民間投資混合で日本が短中期(2025–2030年)に半導体サプライチェーンの回復・強靭化を狙うための実務的プラン案を考えてみましょう。総額は既報に沿って「~10兆円程度(2030年まで)」を想定し、目的別に配分・年次スケジュールを示してみました。
要旨(Executive summary)
●目標:2030年までに、先端ロジック(3–7nm級)を含む戦略的生産能力、材料・装置の国内連携、基礎研究と人材供給を確立して、サプライチェーンの信頼性・回復力(resilience)を高める。
●財源目安:政府支援+民間投資で合計約10兆円(〜2030)を目標。既存の補助金・支援枠(Rapidus支援、TSMCへの補助等)はこの総額に含める想定。
●重点分野(7本柱):
- ファウンドリ(先端・成熟両面)の拡充
- 装置・材料(国内サプライヤー強化)
- パッケージ・テスト・先進封止(advanced packaging)
- 人材育成・研究基盤(基礎→応用)
- 中小サプライヤー支援とDX化
- 輸出管理・サプライチェーン安全保障(ガバナンス)
- 国際連携(盟邦・友好国との協調)
参考枠組み(事実ベース)
●日本政府は2030年までに約10兆円規模の支援を検討・表明している報道がある(計画案の規模)。
●例:TSMC日本拡張に対して東京は約7320億円(約732億円? =報道で732 billion yen)の支援枠を表明している(政府補助は既に供与事例あり)。
●METI(経産省)は半導体復興戦略や先進パッケージ等のR&D補助を公表しており、既に数百億〜数千億円規模の事業が動いている。
再構築プラン(柱別・金額配分モデル:合計10兆円想定)
(単位:兆円、総額=約10.0 =政府支援・税制優遇・民間投資を合算)
- ファウンドリ(先端+成熟) — 4.0兆円
- 目的:先端(3nm→2nmレンジ)と成熟(28nm〜)の生産拠点確保、TSMC等の海外ファウンドリ誘致と国産ファウンドリ(Rapidus等)支援。
- 使途例:大規模投資助成(設備導入補助)3.0兆円、インフラ(電力・水・廃熱処理)0.5兆円、地域補助・港湾整備0.5兆円。
- 年次(概念):
- 2025:プロジェクト認定・環境整備(補助制度・土地確保)→ 0.5兆円
- 2026–2028:建設・設備導入フェーズ → 2.0兆円
- 2029–2030:立上げ・量産支援・トレーニング → 1.5兆円
- 補足:既にTSMCの熊本投資やJASM計画が動いている。政府支援はこれらを早期稼働・第2フェーズ誘致に活用。
- 装置・材料(供給網強化) — 2.0兆円
- 目的:フォトレジスト、シリコンウエハ、CMPスラリー、ガス・高純度化学薬品、成膜材料等で国内サプライヤーの増強・設備更新。
- 使途例:R\&D補助(材料技術)3000億円、設備更新・増産支援7000億円。
- 年次:2025開始〜2028集中投資(国内生産能力の3年ブースト)。
- 根拠:SUMCO、Shin-Etsu、JSR等は重要素材で世界シェアを持つため、競争的優位を拡大する投資が妥当。
- 先進パッケージ&テスト拠点 — 0.8兆円
- 目的:ファウンドリで作ったウェハーを高付加価値商品にするため、3Dパッケージ、Heterogeneous integration、SiP等の国内能力を確立。
- 使途:先端パッケージ用装置導入、量産ライン、共同研究拠点。
- 年次:2025–2027で集中投資。METIで既に採択案件あり。
- 研究・人材育成(基礎→応用) — 0.6兆円
- 目的:半導体材料・デバイス・プロセス研究と、技能工・プロセスエンジニア・設計人材の育成。大学・産学連携、リスキリング(女性・高齢者の活用含む)。
- 使途:大学連携研究助成3000億円、職業訓練・技工校支援2000億円、国際人材交流1000億円。
- 年次:継続的投資(2025–2030)。
- 中小サプライヤー支援 & DX化 — 0.4兆円
- 目的:設備の信頼性向上、部品供給網のロジスティクス強化、検査・品質管理の標準化。中小が倒れない仕組み作り。
- 使途:設備リース補助、品質保証共同センター設立、共同購買プラットフォーム。
- ●年次:2025–2028集中支援。
- サプライチェーン安全保障・ガバナンス — 0.6兆円
- 目的:輸出管理(該非判定)、サイバーセキュリティ、サプライチェーン監視、在庫管理、リスク評価体制の構築。
- 使途:経産省・外務省の人員増、デジタル監視プラットフォーム、企業向けガイダンス、法整備支援。
- ●年次:2025〜2026で制度構築、以後運用。
- 国際連携・外交支援(パートナー誘致) — 0.6兆円
- 目的:TSMC、Samsung、Intel等の誘致支援、FTAを通じた安全なサプライネット、共同研究ファンド。
- 使途:投資誘致補助、共同プログラムファンド、地域協力事業。既にTSMC支援で実績あり。
- 予備・リスクバッファ(不測費) — 0.0–1.0兆円
- 事業遅延・地政学リスク・価格変動対応に備え、最大で1兆円を確保(プロジェクト進捗に応じて配分)。
年次計画(ハイレベル、2025–2030)
●2025(準備・制度化):法制度・補助枠設計、プロジェクト認定、土地・電力手配、大学連携開始。政府支出見込:0.8–1.2兆円。
●2026(建設開始):ファウンドリ建設・装置発注、材料シフト開始、中小支援開始。支出:1.5–2.0兆円。
●2027(設備導入・立上げ):主要ラインの生産設備導入、先進パッケージ拠点稼働準備、人材本格採用。支出:2.0–2.5兆円。
●2028(量産初期・安定化):成熟ノード量産開始、材料・装置の国内供給拡充。支出:2.0–2.5兆円。
●2029(スケールアップ):生産能力拡大、輸出入ルールの運用成熟。支出:1.0–1.5兆円。
●2030(到達点):先端ノード(共同設計や限定生産)+成熟市場での自立的供給確保。残額調整。
合計で政府支援+民間投資の合算で10兆円レンジを目標(段階的給付・成果ベースの補助が望ましい)。
実施上の「現実的設計」(運用面)
- 競争入札+成果連動補助:補助は成果(稼働度、生産性、雇用創出、国内調達率)にリンク。
- 地域分散だけでなく集中の両立:電力・水などインフラの面で「クラスター」をつくり、効率と回復力を両立。
- 中小企業の“入札保護”スキーム:主要装置メーカーが大規模発注する際のサプライチェーン優先枠。
- 知財・技術移転ルール:外資誘致は条件付(ジョイント開発、国内人材育成、部分的技術共有)。
- 環境規制の整合:高用水・排熱問題の解決(再生可能エネルギーや廃熱利用の補助)を同時実施。
KPI(主要評価指標)
●2030年までに国内での半導体ウエハ換算生産量(12インチ等)の×倍化(目標値は政策決定にて確定)。
●先端ノードの国内稼働ライン数(例:3–7nmでの共同生産ライン数)
●国内外調達比率(重要材料の国内比率を30–50%へ向上)
●半導体関連就業者数の増加(5年で+数万人規模)
●サプライチェーン断絶時のリカバリ目標(72時間〜7日間で重要ラインの一定復旧)
リスクと対策
●リスク:人材不足 → 対策:迅速な技能訓練、移民・外国人高度人材の受け入れ拡大(短期ビザの簡素化・定住支援)。
●リスク:設備納期遅延(ASML 等の制約) → 対策:代替技術投資、装置共有センター、装置供給先の多様化。
●リスク:地政学的変化による資金・部品断絶 → 対策:友好国との共同備蓄、相互供給協定、在庫ポリシー。
●リスク:プロジェクトの過剰投資/需要ミスマッチ → 対策:段階払いの補助、マーケットベースの検証(事前需要確約)。
政策事務設計(ガバナンス)
●中央司令塔(仮):「半導体戦略庁(タスクフォース)」を設置(内閣直轄)し、各省(経産、文科、国交、環境、防衛、外務)と連携、投資審査・補助執行を一本化。
●公民連携(PPP)スキーム:民間コンソーシアム(ファウンドリ、材料、装置、設計)が提案→政府は資金・外交支援を付与。
●透明性と評価:年次レビューと第三者評価(独立シンクタンク)を義務化。
なぜ今か(戦略的理由)
●世界的な「友岸化」(friend-shoring)・供給網再編の潮流で、日本は材料・装置で既に強みを持つ(Sumco, Shin-Etsu, Tokyo Electron 等)。これを「下支え資産」として、上流(先端ファウンドリ)と下流(パッケージ)を結び付ける好機である。
次のアクション(すぐやるべきこと)
- 内閣レベルでの財政枠(2030までの概算10兆円)承認とタスクフォース設置。
- 早期に「プロジェクト認定制度」を制定し、1–2年以内に主要案件(TSMC第2フェーズ、Rapidus進捗支援等)へ資金配分。
- 中小企業向けのワンストップ窓口・該非判定支援の即時立ち上げ。
- 大学・若手研究者向けに「半導体人材奨学金・研究助成」を設置。
